たんていくんゲームの構造

第2セクション シナリオを作る■■

MDDR(全方向型捜査システム)

工程3 犯人を作成し、事件を起こす

 工程1〜2で作った町に、新たに犯人役を創造し事件を起こします。私達作者は、犯人になったつもりで詳細な犯行計画を立て実行します。ただし、推理小説と違い、「プレイヤーが事件を解決出来るように」という配慮は一切しません。現実社会の犯罪者と同じです。今後私達が懸命に努力すれば、いつか完全犯罪が成立し、前代未聞の「解けない推理ゲーム」になるかもしれません。(笑)

 工程2で作った1000人×1か月分のスケジュールデータと、犯人の行動データを照らし合わせます。例えば、犯人が事前に計画の準備として商店で刃物を購入したとします。それがいつどこで買われたのかを調べると、販売した店員は誰なのかが自動的に算出されます。従って、もしプレイヤーがこの人物を探し出して話を聞けば「そういえば何月何日にこういう人にナイフを売った記憶があります」等と答えるわけです。

 また、犯行計画を見直していくと、例えば犯人が爆発物をどこかに仕掛けたとするなら、その場所と日時をスケジュールデータと突き合わせてみると、住民A氏が毎日その時刻にすぐ近くを散歩する習慣だという事が分かります。だとすれば、A氏が犯人を目撃した可能性が出て来ます。私達は推理作家のように物語を「創作」しません。あくまで「算出」するのです。これによって、ゲーム中の空間全てで矛盾を避ける事が出来ると思います。あちこちで論理的な辻褄が合えば、プレイヤーは従来のゲームより現実に近い形で推理を楽しむ事が出来るのではないでしょうか。これが私達の狙いです。

 このシステム上で重要なのは、スケジュールデータはあくまで私達作者が事件を作り上げるための物であり、プレイヤーはそれを直接見る事が出来ないという点です。どこへ行けばいいのか、誰に話を聞けばいいのか、それを推理する事こそがこのゲームの魅力です。私達はマップと事件(つまりシナリオの発端)を提供するだけです。どうやって解決するかは、プレイヤーの腕の見せどころというわけです。



工程4 捜査ツールを提供する

 いくらリアルな町を目指しても、残念ながらゲームである以上は現実その物を完全に再現する事は不可能です。プレイしやすいようにデフォルメすべき部分、削るべき部分、ゲーム独自の「お約束」とすべき部分等もあります。プレイヤーは実社会と違い、必ずしも全てのデータを得る事は出来ません。私達は作中でプレイヤーに何を提示し、何を省略するかを決定します。推理のルールを決める作業と言ってもいいでしょう。このMDDRの調整が、普通のAVGで言う難易度とかゲームバランスとかの問題になると思います。

 仮に、前のページで述べたTVS(バーチャルマップ生成システム)で構築したデータ全てをMDDR上に展開すれば、リアル感が増し、推理の幅が広がります。反面、ゲームとしては扱いが難解になっていきます。一般のRPG・AVGはデフォルメの手法やその度合いがほぼ研究し尽くされています。これに対したんていくんはまだ第一歩の段階に過ぎません。TVSとMDDRの理想的な均衡点を探るのは、私達の今後の課題です。

 次に、捜査によってどんな種類のデータを入手出来るのかを具体的に決めます。今回の作品では、皆さんにたんていくんの特徴を気軽に知って頂くため、ごくシンプルに「証言を聞く」のみにしました。従って、私達が細かく設定したにもかかわらず、本作の表面に全く現れないデータも数多くあります。しかし、これらを無駄だとは思いません。リアルな町や人々を作り上げて、その上で事件を起こすというシステムそのものがたんていくんなのです。

 前述のように程度問題はありますが、今後は目に見える(表に出る)データ量を増やしたり、あるいはパラメータの種類を増やしたりする事によって、より自由で現実に近い捜査が可能になると思います。例えば、仮に住民それぞれが所有している車のデータを作れば、プレイヤーはその線からも推理や調査を行う事が出来ます。さらに一台ずつ具体的なナンバープレートをつければ、ずいぶん面白みが増していく事がお分かりになるでしょう。犯人側も、ミステリ小説のようにトリックを使ったりも出来るでしょう。そして、プレイヤー一人一人が、自分独自のやり方で推理を楽しむ事が出来るようになります。

 話を開発手順に戻します。さらに、ゲーム中でプレイヤーが使用出来るデータベース類を用意します。これは、整理された状態で作中で自由に検索出来るツールという意味ではありません。捜査の面白さを味わえるように、意図的に不便にしています。今回は主人公の地元の新聞約1か月分と、電話帳を提供します。新聞は画面上でも表示されますが、テキストファイルとしても同梱しますので、印刷して手元に置き、適宜参考にしながら考え進める…というように、実際に捜査している雰囲気を作る事も出来ます。筆記具を傍らに一歩ずつ捜査・推理を行うアナログな面白さを堪能してください。

 ※新聞サンプル クリックすると拡大します
   



完成

 そして何と、これで完成です。皆さん、不思議に思いませんか?
「ゲームの裏側に大量のデータが含まれているのは分かったが、肝心のシナリオはどうなってるの?」
 そうですね。もっともな疑問です。実は、このゲームにはシナリオが無いのです。事件の起こる背景や犯行計画・プロローグ・エンディングなどごく一部を除いては、一般的な意味でのシナリオはありません。私達は皆さんにストーリーを提供しないのです。このゲームはRPGのような「物語」ではありません。決められたルールの中で、自由に推理し、自由に捜査する事自体を楽しむゲームなのです。


 これらの思想によって作られたたんていくんの実作には、具体的にどのような特徴が生じるでしょうか。これについてはこちらで解説しています。

 私達が最終的に目指すのは、「優秀な推理力を持った人なら5分でクリア出来る。そうでない人は何百倍もかかってしまう」というゲームです。純粋に推理を楽しむゲームを何とか実現したいと思います。道が険しいのはよく分かっていますが、どうしても「本物の推理ゲーム」「能動的に解ける推理ゲーム」を作りたいのです。

このプロジェクトに対するご意見を是非お寄せ下さい。
info@meikyuclub.net